第21章 dusk 零√
「珠紀、こっち向いて」
「ん……?」
「はい、あーん」
「あ……――ん?」
思わず口を開けてしまった。すると、ころんと何かが口の中に放り込まれる。舌で確認してみたら、甘くて……どうやら飴玉らしい。
「ん、美味しい……」
「でしょ? しんどい時は、甘い物がいいよ。少し元気になるから。これ、元気になる魔法」
「……ふふ、変なの」
「珠紀は……笑ってる方がいいよ」
「千里?」
「……俺ならきっと、珠紀にそんな顔させない」
それはどういう意味……?
瞬きを繰り返していると、千里は再び本へと視線を落とした。何を読んでるんだろう? 覗き込んだから失礼だよね、聞いてみても……いいかな? でも読んでる邪魔にならないかな。
「次はそわそわし始めて、珠紀は忙しいね」
「うっ……そんなこと、ないもん」
むっと頬を膨らませれば、千里が私をちらっと見る。するとくすっと笑った。あ……そういう顔、するんだ。
「何があったの? 俺で良ければ、話、聞くよ」
千里の優しい眼差しに、なんだか心が落ち着いてくる。でもこればっかりは私の問題だし……人に相談するっていうのも。
「私なら大丈夫。気にしないで」
「珠紀」
千里のしなやかで綺麗な指先が、私の唇に触れる。
「ほら、俺に……話して?」
何故だろう。この人には何故か、素直に言ってしまいたい衝動に駆られてしまう。どうしてそう思うのか、私にもよくわからないけど。
少しだけ、少しだけ……。私の弱さを、この人に晒してしまっても……いいのだろうか?