第3章 Lady
少しずつ何かが抜け落ちていく。眠る度に失われて、私は未だそれに関して恐怖を覚えていなかったりする。大丈夫、何も失われていない。
そうやって信じることで、何一つ変わっていないのだと、思っていたいのかもしれない。
――馬鹿だなぁ。
穏やかなお昼休み。珍しく眩しい太陽の下、お昼ご飯を食べてみる。あ、ちゃんと木陰の中にいるから直射日光は遮断。
「普通科だ」
「ん……?」
お弁当を食べながら、顔を上げた。
中庭のベンチに座る私を見ている、一人の少年と日傘をさした少女の二人。どちらも見慣れぬ白い制服を着ていた。あれ? ということは、夜間部?
「どうも」
「こんな場所でお昼ご飯食べてる人、俺初めて見た」
「支葵、私先に帰っていい?」
「あ……うん。いいよ」
女の子は一度私に視線を向けると、そのまま夜間部の寮の方へと歩いて行った。しかし、目の前の支葵……と呼ばれた人は未だこの場を離れようとはしない。
「貴方は行かないんですか?」
「卵焼き……」
「え?」
……彼の視線の先には、私のお弁当。もしかして、食べたい……のかな?
「食べる?」
卵焼きを一つ掴んで、目配せしてみた。彼は一瞬驚いたように目を見開いて「いいの?」と返してきた。
「うん、貴方が……食べたいなら」
「貰う」
彼は私の隣に腰掛けて、卵焼きをねだる様にあーんと口を開けてきた。む、無防備!! ちょっとだけ私だけが動揺しながら、彼の口へと卵焼きを運んだ。