第20章 guilty 零√
『錐生君、ごめんね。えっと……これから君の家族になる人です! 名前は珠紀ちゃん。可愛いでしょ?』
『別に……』
『珠紀ちゃん、彼は錐生零君。僕らは、家族になるんだよ』
家族。今思えばなんて愚かな響きなのだろう。偽りの家族というぬくもりに抱かれて、私は育っていく。過去を何も思い出せない私には、家族のぬくもりとやらは最早理事長達が与えてくれた分しか……思い出すことが出来ない。
お父さん……お母さん……。
『お前……ヴァンパイアに襲われたんだってな』
『え……?』
『き、錐生君! 今はまだ何も教えてあげない方が……っ』
『よかったな、死ななくて。生きてここに戻れたことを喜ぶのか、呪うのか。俺は楽しみだよ』
不敵な笑みを浮かべた零は、もう興味がないと言いたげに部屋を出て行った。
『ごめんね、珠紀ちゃん。いずれは詳しく君が事故に遭う前のことを、話すこともあるかもしれない。けれど今は……今だけは。忘れなさい』
『忘れる……?』
『そう、何もかも忘れてしまいなさい』
その言葉に従うように、私は眠りへと落ちていく。
忘れて行こう、何もかも。そうして私は……眠った世界へと度々落ちていくことが増えたんだった。
遠くの方で声がする。そうだ、起きなくちゃ。
意識は急激に浮上して、息をする。