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Bloody Signal

第19章 chain 零√



 英さんに案内して貰いながら、初めて月の寮へ足を踏み入れる。立ちこめる空気は何処か重くて、思わず息が詰まりそうな気がした。


「どうかしたか?」

「いえ……大丈夫です。なんでもありません」


 そう微笑めば、大袈裟に英さんはため息をついた。


「やっぱり……やめておくか?」


 玖蘭さんに会って、私は何を話すべきなのだろう。何を話さなければいけないのだろう。彼の呼び出した真意がわからない以上、今ここで立ち止まって考えていても仕方ないこと。そうだとわかってはいるものの……。


「大丈夫ですよ、本当に」


 でもたぶん、あの人から逃げることなんて出来ない。逃げようだなんて、きっと彼が許してくれない気もする。今はただ自分のありのままの気持ちを話すしかない。


 考え事をしている内に、英さんの足が止まる。どうやらここが、玖蘭さんの部屋の前らしい。


「一緒に行ってやろうか?」

「いえ、一人で行けます。わざわざありがとうございました」

「……じゃあ、行くぞ」


 英さんがノックをする。中から控えめな声で「どうぞ」と聞こえて来たので、私は扉を開けた。


「珠紀だね。お入り」


 窓辺に手をついて、憂いの表情を浮かべた玖蘭さんがそこにいた。絵になるその姿に、思わず固まってしまいそうになったけど、力強く後ろから押されて振り向いた。


「頑張れよ」


 英さんがそう告げると、扉はすぐに閉じてしまった。

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