第18章 dark 零√
玖蘭さんは眉間に皺を寄せ、私へと手を差し伸べる。それは何の真似なのか、その手を取れと言っているのだろうか……。
「零を連れて行って、どうするつもりですか?」
「どうもしないよ。今はこの場を離れるべきだと思っただけだ。彼はべっとりと血をつけているんだぞ。他の人に見られては、彼はもうこの学園にさえいれなくなる。それは君も望まないことだろう?」
「……本当に、零の為にそうするだけだと思っていいんですね?」
「勿論だよ。だから、錐生君をこっちに渡すんだ」
私は玖蘭さんに笑いかける。きっとこの人の言っていることは、間違ってはいないと思うし嘘でもないと思う。頭ではわかっているんだけどなぁ。
「ごめんなさい、玖蘭さん」
「……っ! 珠紀っ!!」
私は力いっぱい零の腕を引いて、走り出す。私に何が出来るとか、出来ないとか今はどうでもいいや。零がもし私の手を望んでくれるのなら、いつも彼が私にしてくれるように手を引いて走っていこう。
ただの逃亡劇の真似事だけど。
「……珠紀……っ」
手を引く私に向かって、零が名前を呼ぶ。それでも止まるわけにはいかない。追いかけてくる音は聞こえない。あの場所から彼を連れ出すだけなら誰にでも出来る。違うの、私はそうしたいんじゃなくて……。