第17章 mirage 零√
「気にするな。俺も眠かったから」
私が気にしない様にと、何でもないことのように振る舞っていてくれる。でもきっとこのやさしさは私だけにではなくて、優姫にもそう……。それでも今はこうして私の傍にいてくれるってことを、素直に喜ぶべきなのかもしれない。
「ありがとう……零」
「何がだよ」
「ううん、言いたかっただけ」
零が私の頬を優しく撫でてくれる。すると、不思議とふわふわとした夢の中へと入っていく。
「もう少し寝ていろ」
「……うん」
零の香りで満ちる部屋の中で、まるで彼に抱きしめられているみたいに思えて。再び私は夢の中へと落ちていった。
◆
眠る珠紀の顔を眺めながら、一人零は溜息をついて懐からタブレットのケースを取り出した。
「俺は……いつまで俺でいられるのだろうな」
グラスに水を注いで、その中に先程のタブレットの中身を一粒入れる。すぐに水に溶けたと思えば、水は瞬く間に赤色の水へと変わっていく。
零はグラスを手にして、一口飲んでみる。けれど……。
「うっ……げほっ、げほっ!! かは……ッ」
グラスが音を立てて床へと落ちる。割れたグラスからは、赤色の水が零れる。それを少しだけ、虚ろな瞳で見つめた零はすぐにタオルで床を拭いた。
「珠紀……」
ぐっと歯を食いしばっては、零は自らの痣のある首に手をかける。爪を立て、何かを耐えるようにずるずると崩れ落ちていく。