第16章 tragic 零√
「な、何するの……っ。零」
「そんなに教えてほしいなら、教えてやるよ」
「零……っ」
急に目の前にいる零が別人みたいに見えて、何故か……それがとても怖くて……っ。思わずぎゅっと目を閉じた。
「っ……」
「……零?」
けれどいくら待っても、何もなくて……ゆっくりと目を開けてみる。そこに映るのは、何かの痛みに耐えるように、ただ苦しそうに顔を歪める零の姿。
「どうして、そんな顔をするの?」
そのまま泣いてしまうんじゃないかと思うほど、儚く揺れる彼の瞳に戸惑う。
「俺はただ……お前を守りたいだけなのに」
急に腕が自由になる。ああ、手を離してくれたのか……と頭で考えながら、気付けば零は私を先程と打って変わって優しく抱きしめた。酷く情緒不安定だ。そんな彼に、私はそっと背に腕を回してあげることしか出来ない。
「傷付けたくない……珠紀。お前だけは」
その言葉に込められた意味も、彼の内にある想いも私は何も知らない。知るはずがない。
冷たい彼の身体に抱かれて、私は静かに目を閉じた。