第16章 tragic 零√
「……会場の方が何か、ざわついているね。僕は様子を見てくるから、珠紀はここにいて」
「でも……」
「大丈夫。すぐ戻るよ」
「あ、別に戻らなくても……っ」
私の言葉を無視するかのように、玖蘭さんは会場の方へと姿を消した。
すると……玖蘭さんと入れ違いになるかのように、何故か会場の方から物凄い剣幕の零が出て来た。
「零……っ」
「行くぞ」
痛いくらいに手を掴まれ、強引に連れ出される。何? どうかしたの?
「零、痛い……よっ」
「……」
どんどん会場から離れるように歩いていく。彼は何も答えない、ぎゅっと掴まれた腕が痛くて……もう何も言えなくなる。
怖いわけじゃない。ただ……どうすればいいか、わからないだけ。
会場が見えなくなったところで、ようやく零は手を離した。
「零……何か、あったの?」
「……別に何でもない」
「じゃあ、どうして私を連れ出したの?」
「あそこに、いてほしくなかったからだ」
一体それはどういう意味なのだろうか……。私がいると、困るような何かでもあるの?
「それだけじゃ、全然わからないよ……」
「なら、わからせてやろうか?」
いきなり肩を掴まれ、その場にあった木に背を打つ。押し付けられ、両手を頭上で縫い止められる。驚愕で真っ直ぐ彼を見つめれば、思わぬ至近距離。零の強く深い瞳が、鋭く私を捕えて離さない。