第2章 sleep
「……おはよ。早いじゃねぇか」
「今日はね、私が優姫を起こしたんだよ」
「は? 冗談っ」
零はそう言って鼻で笑った。
その気持ちはわかる。毎日優姫に起こしてもらって、やっと遅刻せずに通えるようになったから。そんな私が早起きをして、優姫を起こして登校してきたなんて私でも嘘だと思うもん。でも残念、本当なんだから。
「嘘だと思うなら優姫に聞いてみたらいいよ」
「聞かねぇよ……めんどくせぇ。あ、そういえば今日俺ら日直だから。日誌は宜しく」
「……黒板消し宜しく」
本鈴が鳴り響く。私がどんなに早起きしようと、授業の内容もクラスの空気も何一つ変わらない。先生の理解不能な公式を右から左に受け流して、呆然と零を見た。
あ……寝てる。
「ねぇねぇ、零」
小さな声で話しかけてみる。これなら先生にもばれない。
一度零はこちらをちらりと見ると、すぐにまた目を閉じた。
「零ってば」
消しゴムを投げつけてみる。お、当たった。目を開けた……と思ったらこっちに向かって零が消しゴムを構えている。
「なんだよ、当てられたいのかよ」
「違うよ。ねぇ、零はフラワーギフトデイ。誰かに花を贈るの?」
「あ? 知らねぇ」
零は普通に私に消しゴムを渡して、また寝入ってしまう。こんなに授業中寝ているのに、彼が補習にほぼ参加したことがないだなんて、誰が想像できるだろうか。
それに比べて優姫は……。