第16章 tragic 零√
「美味いか?」
「そりゃ美味しいですけど……」
「これやるから、許せよ」
思わず目をぱちくりと瞬きしてしまった。えっと……?
「鈍い奴だな! お詫びの印だって言ってんだよ! 別にお前のこと、嫌とかそういうの……ないから」
「そうなんですか?」
「なんで初対面の女子を理由もなく嫌う必要があるんだよ。意味不明だろ」
「それもそうですね」
なんだ、違ったんだ。あ、別に残念という意味ではなくて。ほっとしただけ。
「そのココア、誰に持っていくのか知らないが行かなくていいのか? 冷めるぞ」
「そ、そうですね! ありがとうございました」
目的を忘れるところだった。
ココアを持って、零のところへと急ぐ。けれど外に出てみれば、そこには零の代わりに玖蘭さんだけがいた。あれ? 入れ違いにでもなったかな……。
「やあ、珠紀。どうかしたのかい?」
「えっと……零を見ませんでしたか?」
「錐生君かい? 先程までここにいたけど、何やら慌てて去ってしまったよ。因みに、そのカップは?」
「零に渡そうと思って。外は冷えますから」
「そう……。でも残念だね、たぶんそのココアが暖かいうちに、彼がここに戻ることはないと思うよ」
「そうなんですか? じゃあ、代わりに玖蘭さんが飲んでくれませんか?」
「……僕が飲んでいいのなら」
玖蘭さんにカップ渡して、成り行きで二人並んでココアを飲みながら夕陽が沈む、夜が訪れた空を眺めていた。