第16章 tragic 零√
「なぁに? 僕の顔をじろじろ見て」
「……見てないです」
「ははん? さてはこの僕に惚れたな! いやぁ、美しいって罪だよなぁ」
「あの……」
「僕の名前か? 仕方ないなぁ、今回は特別に教えてやろう。僕の名前は藍堂英! 英って特別に呼んでいいぞ」
「……珠紀、です」
「……反応薄いな、お前」
英……さんと言えば、確かよく玖蘭さんと一緒にいた……ような気がするけど思い出せません残念。反応が薄いと言われても、この人は私にどんな奇天烈な反応を求めていたのだろう。……別に奇天烈でなくともいいのかもしれないけど。
「お前、黒主優姫とよく一緒にいる奴だろ」
「よく知ってますね」
「黒主を見かける時、セットでいつもお前がいるからな。そりゃ嫌でも覚えるだろ」
「嫌々覚えさせて悪かったですね」
「別に嫌々覚えたとは言ってないだろ」
「でも嫌でも……と言いました」
「お前は子供か」
しかめっ面をする私に、英さんは面倒くさそうに「わかったわかった」とテーブルから一つ、シュークリームを掴む。
「んっ、あーんしろ」
「……嫌がらせですか?」
「いいからしろっ!」
「……あーん」
同時にシュークリームを食べさせられる。どうして私はいきなり出会った、しかも初対面の異性にこのような行為をさせられているのだろう。強要? いけないぞ、そういうのは。