第16章 tragic 零√
「これ、零に贈ろうと思って。白薔薇」
「俺に? 誰も貰ってくれなかったのか?」
「ち、違うもんっ! 貰ってくれなかったんじゃなくて、私が他の誰にも贈らなかっただけ。零に……贈りたいと思ったから」
「……そうか」
差し出した白薔薇を受け取った零は、何も言わず胸のポケットへ飾る。黒い制服に、白い薔薇。とてもよく似合っていると思う。
「もしかして、零は全て終わるまでここにいるの?」
「当たり前だろ。それが俺の仕事だからな。珠紀はどうするんだ? 送ってやれないから、本当なら終わるまで待っていろとでも言いたいが……」
「ううん、一人で戻ってもやることないし……それに今は調子がいいみたいだから、もう少しここにいようと思う」
「……もうすぐ夕陽が沈む。会場の中にいれば寒くないし、お前は早く室内に戻ってろ」
「零だってそのままじゃ風邪引くよ?」
「俺は風邪引かないからいいんだよ」
果たして、その自信はどこからくるのやら。
仕方なく一旦室内へと戻る。同時にカップに暖かいココアを入れて、二人分持って再び零の場所へと向かう。
途端、目の前に人が飛び出してきて思わずカップを落としそうになる。
「おっと……危ない」
「……わっ」
その人は私の身体を支えると同時に、二つのカップが落ちてしまうのも手で救ってくれた。幸いココアは少し中で揺れた程度で済んだ。
「ごめんね、零れてない?」
「あ、はい……大丈夫です」
金色の髪に、マリンブルーのような瞳。なんか、派手かも。