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Bloody Signal

第16章 tragic 零√



 人混みを掻き分けて、喧騒から逃げるように出口へと向かう。


「零……!」


 扉を抜けて外へと出れば、風紀委員の印を腕につけた零が棒立ちのまま空を眺めていた。


「何をしてるの?」

「珠紀か。見てわからないか? 雲を見てるんだよ」

「……空じゃないんだ」


 零に習うように私も雲を眺めてみる。少し風が強いのか、流れが早いように思う。ちらりと彼を見れば、本当は雲なんか見ていないんじゃないかと思うほどの、無機質な瞳の色。このまま声をかけずに立ち去った方が、いいのかな。


「俺に用か?」

「え……?」

「だから此処に来たんじゃないのか?」


 零の瞳が、今度は真っ直ぐ私を映す。吸い込まれるような……クリスタルのような瞳は、まるで何もかもを見透かしてしまうようで。


「よくわかったね、私まだ何も言ってないのに」

「そりゃわかるだろ。わざわざ俺に話しかけて来たんだから」

「それもそうだね」

「で、どうかしたか?」


 ふっと零が笑う。彼がこうして無防備に笑ってくれるの、私と優姫の前でだけだと以前理事長が言っていた気がする。幼い頃に両親をヴァンパイアに殺されて以来、彼はそのせいかどこか夜間部に冷たく当たる節がある。

 それだけ彼にとって、ヴァンパイアは最も憎むべき相手なのかもしれない。零が復讐心を抱いていないのが、唯一の救いなのかもしれない。いや、別に本人に聞いたわけじゃないから事実というわけでもないけど。

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