第14章 birdcage 枢√
「もうこの部屋も見納めなんだね」
「あ、はい。学校に入るまではずっと……この部屋で過ごしていたので、変な気分です。実家から一人暮らしするような気分で」
「ふふ、そうかもしれないね。でも戻ろうと思えば戻って来れるさ」
「……そうですね」
たぶん私がここへ戻ってくることは、もうないだろう。いつかは誰かがこの部屋を使うのかもしれない。これから先、入学する子達が。
そうなればこの場所も、ただの思い出の場所。
「結局君は、僕の部屋にじゃなくて一人部屋を要求するとはね」
「枢と同じ部屋なんて、心臓がいくつあっても足りませんから」
「はいはい」
後ろからそっと、枢は私を抱きしめた。
「学校、今から緊張する?」
「大丈夫です……枢がいるから」
それと、一条さんもいるから。というのは胸の中でのみ、呟くとしましょう。口に出してまた機嫌を損なわれてもいけないから。
「あ、ここにいたのね。珠紀」
「あれ? まりあ……どうかしたの?」
不意に枢が私を抱きしめる力を強めた気がした。気のせい? じゃないよね……。
「転入生が、彼女に何か用かな?」
「あら御機嫌よう、玖蘭さん。私が彼女にどんな用だったとしても、貴方には関係ないでしょ?」
「そうはいかないかな。珠紀は僕の大事な人なんでね」
「ふぅん……では精々、手を離さない様になさって下さいね。また後で話しましょう、珠紀」
風のようにまりあは去って行った。というか、この時間に夜間部が堂々と歩いているなんて……。変わった転入生だ。