第13章 appeal 枢√
「珠紀」
誰かの手が、走り去ろうとする私を捕まえる。囚われてしまう。
「……かな……め、どうしてここに……」
「本当に、じっとしていられない子だね」
「枢……っ」
知らず知らず誰かを傷つけてしまう。そんな自分が、もっと嫌になる。こうなるはずじゃなかった自分を知った時、皆はどうするのだろう?
枢の胸に顔を埋めて、私は情けなくも泣き崩れた。
誰を思っての涙? 何のための涙?
「珠紀……錐生君と、会っていたね?」
「……はい……っ」
「……。一条とも、会ってるね。はぁ……君は本当に、じっとしていられない子だ」
枢がぐっと私の肩を掴む。なんだろう? 何かいつもと違う気がして、涙に濡れた瞳で彼を見る。そこにあったのは……。
赤い瞳の、枢。
「なに、するの……?」
「妬けてしまう。僕だけの珠紀でいてほしいと……思っているのに」
「……っ」
枢が私の首筋に口元を寄せたかと思うと、前触れなく牙を突き立てた。血を啜る音がすぐ近くで聞こえてくる。抗う術はない、というよりも……抗う気などありはしない。
「んっ……はぁっ。誰にも君を触れさせはしない……珠紀」
彼はそのまま口元を私の血で濡らしながら、私の胸元へと額をくっつける。
「珠紀……愛してる」
毒みたいに、その言葉は私を麻痺させていく。