第12章 夢
「…ごめん。あんまり聞いてなかった。何かな?」
私は真司の顔を見て微笑む。
彼はやれやれって顔をする。
でも怒ってはいない。
こういうことでは怒らないのだ。なるほど。
「母が風邪をひいていてね。家で休んでいるんだ。だからどこか寄り道に付き合って欲しいんだ」
「え、そうなんだ。大丈夫なの? 帰ってあげたほうがいいんじゃない?」
「いや…そこまで重病じゃないし…。高校生の息子にそんなこと期待しないだろう。ましてや僕は義理の息子だ。いないことが一番休まるんじゃないかな」
「うーん…」
真司は多分、気を使いすぎだろう。
だけど確かに、高校生男子が風邪をひいた母親に対して出来ることの最善な気はするね。いないっていうのは。
「じゃあ、家においでよ。うちのお母さんは5時すぎに帰ってきちゃうから、それまで家で宿題でもやって、それから一緒に晩ごはん食べに行こうか」
「いいね」
彼が嬉しそうに同意した。