第3章 緑な三男の場合 「花火」
「…じゃあちゃんだけでも行ってきて?」
「……、ひとり、で?」
不思議なことを言う彼に首をかしげた。
いくら花火大会だからって
せっかく2人で過ごせる時間を
わざわざ1人でそれを見に行って
"綺麗だね"と話す相手もいないその時間は
果たして意味があるのだろうか。
「うん、俺…行けないから。
俺の分の花火、見てきてくれない?」
切なそうに眉を下げる彼。
俺の分、そう言われちゃ断れない。
だって、
彼そんなにまでして見たいものなら
見せてあげたいって、
そう思ってしまうから。
「…じゃあ花火の写真
撮ってくるから待っててね」
さっきまでの悲しそうだった顔が
やった、という声と共に明るくなる。
と思った途端に眉を寄せて
勢いよく近づく彼の顔。
「変なやついたら電話してよ!?
いい!?わかった!?」
1人で行って、そう言ったのは彼なのに。
必死な彼に
心配してくれてると嬉しくなって
笑い声が漏れた。
そんな私の反応を見て
「笑い事じゃ、ない!」
と肩に力を入れる彼がまた迫って。
「ご、ごめんごめん…!
じゃあ、行ってくるね」
うん、行ってらっしゃい
と玄関まで見送られて
私は1人賑わう場所へと出て行った。