第5章 紫な五男の場合 「知らないこと」
「俺を知らなさすぎる」
「そーお?
そんなことないと思うけどなあ」
怒るとかなり根にもつとことか、
笑うと大人っぽい綺麗な顔が
たちまち天使みたくなるとことか、
負けず嫌いだけど優しいとことか、
寝る時は必ずキスしてくるとことか、
結構知ってるんだけどなあ、
と指を折って1つずつ呟いてみる。
さっきまでの重圧がいつの間にか無くなって
「じゃあ、これは?」
と優しく笑う彼。
「…こと好きで好きですげえ好きで
事務所に付き合ってるって
報告しちゃったこと、とか?」
「……、知らない…」
「……今日、結婚しようって
言いに来たこと、とか?」
「…も、もっとしらない!」
思いもよらない 「結婚」の2文字に
どんどん視界が滲んでく。
ほら、知らないこと見つかった、と
無邪気に 笑う彼にまた、
私の知らない顔を見た気がした。
FIN.