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第一話 シェアハウスの恋人

第7章 バイト〜藤ヶ谷編


あの当時の玉は見てられなかった。
あいつは彼女の為に業界を離れようとしたにも関わらず、彼女の方は違った。
同時期に芸能界入りした彼女は、煌びやかな世界に魅了され平穏な現実の生活へ戻る事を拒んだのだ。
結局双方とも折り合いが付かなくなったあいつは全てを失い、消耗しきった心に深い傷だけが残った。
月日も経ち、吾郎さんのサポートもあってか回復をみせていた頃にその傷はまたえぐられる事になる。
玉の元を離れて行った彼女は順調にスターへの道を進んで行ってしまったため、聞きたくもないプライベートまで耳に入って来てしまうのだ。
悪気のない芸能リポーターの言葉は液晶画面の向こうから、暴力のように、猛毒のように彼の心にダメージを与えていった。
熱愛、お泊り、破局、恋多き女性…

今日はなんだか昔を懐古することが多いな…
場の会話はそつなくこなしつつも、やはり心無しか酒が進むペースがいつもより早い事には気がついていた。
「すみませーん。ちょっとトイレ行ってきます。」

トイレから出るとそこには例のスタイリストが立っていた。
「あ、すみません。お待たせしました。」
分かってはいつつも、面倒なんで通り過ぎようとしたのに無理矢理押し戻され扉を閉められてしまった。
身体を密着させられるが、心ここにあらず。目線は合わせず宙をまう。
「照れちゃって。かわいい♡」
照れてねぇって。退けよ…。。。とはいえ、仕事相手だしゾンザイに扱うわけにもいかないのでやり方を変える事にした。
気もなくダラリと降ろしていた両腕を、相手の腰元から背中に向かって這わせる。
香水なのか、クリームなのか、上気した身体から今まで以上の甘いローズの匂いがたちこめていった。
片方の手を首もとまで持って行き、自分の口元に相手の耳を寄せて囁く。
「上司もいるし…こんなところで迫られても困っちゃうなぁ。場所が悪いっすよ。」
「////」
今度は身体を離して、相手の目を見つめてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「なんて言って部屋出て来たの?トイレって言ったら俺とこうしてるのバレちゃうよ?」
すでに相手の女性の視界には太輔しか写っていない。
「大丈夫…電話してくるって出て来たの…」
「そか、いい子だね。じゃ、気づかれないように先に戻ってて…ね?」
「うん…」
そう言って彼女は後ろ髪ひかれるように扉を開けて、出て行った。
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