第6章 バイト
その後は来客もまばらで、あとは個室を残すのみとなった。
「おーい、マイコ、千。今日もう上がっていいぞー」
「ハーイ」
着替えて店を出ようとすると、先ほど入口でいい匂いを漂わせていた女性がちょうど廊下から個室に入っていくところだった。
トイレにでも行ってたのかな?
ワンテンポ遅れて、脇にあるトイレから、たい兄も出てくる。
うーん、うちの店、トイレ一つしかないんですけど…
太輔はこちらに気づいても何一つ顔色を変える事なく、声をかけた。
「お、帰りか。そのワンピ似合ってんね♪コーデもいい感じじゃん」
「ありかとー。玉ちゃんの指導です♡」
「あ、一緒にミツ兄に届け物したんだっけ?」
「うん」
「あいつ、もしかして今日そのワンピと同じ色のストール巻いてた?」
「お、良くわかるね!」
「だってそれ、同じラインの生産でこないだあげたヤツだもん。…ふーん。」
「?」
マイコは太輔のしたり顔の笑顔の意図が掴めないまま、小首をかしげていると、後ろからパタパタと足音が近づいてきた。
「マイコー、帰るよー」
「あ、健永くん。じゃ、たい兄、またねー♪」
出口に向かうため、太輔の横を通りすぎようとした時に、急に手首を掴まれ引き止められる。
グイっと引き寄せられ、耳元で上質なビロードを思わせる美声が響く。
「俺もすぐ帰るからさ、寝ないで待っててよ」
あまりに急な展開でドキリとしたが、普段は太輔からしないスイートローズの匂いが微かにしたのでなんとか平静を保つ事が出来た。
「…たい兄、今日は随分と甘い匂いがするねぇ」
「ん?なに、ヤキモチ…?」
顔が正面に相対するよう向きを返られ、上目遣いで見つめられる…さすがに、これは、、、