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第一話 シェアハウスの恋人

第5章 お届けもの〜北山サイド


「じゃ、1Rってことで3分な」
右手を上げると、勢い良く玉の拳が入ってくる。
我が弟ながら、筋がいいねぇ。
フットワーク軽く動く玉の動きを観察しながら、一発一発丁寧にパンチを受け止める。
リズムが乱れないように、パンチがあたる瞬間にミットを前に軽く突き出す。
タイミングを合わせてやることにより打つ側にしっかりミートする感覚を与え、体に覚えさせる。
ある程度、コツが掴めて来たであろうところから、動きの主導権を相手に移す。
そうする事により、距離感やタイミングをパンチャーに分からせて行くのだ。
繰り出されるパンチの隙間に、相手の表情を垣間みる。
いい顔してるな。ホレボレするぜ。
滝汗かいちゃって。昔はあんなに泣き虫だったのにさ。


疲労で倒れ込む玉。
うっし、いい感じだったな。もう2、3Rくらいやってこいつの筋肉虐めてやれば、きっといい感じに発達するに違いない。
スポーツマン特有のある種、良く解らない満足感に浸りながら、リング下にいるマイコに気がつき声をかける。
見上げたマイコの顔は少し蒸気していた。

…あ、この顔見た事ある。

懐かしのあの人が一瞬だけ俺の目の前に帰って来た日。
そしてそれはキミを初めて見つけた日。

マイコがうちに来てから渉とガヤには確認してみたんだが、二人からは同意は得られなかった。
「確かにマイコはハーフっぽい顔してるけど、似てないっしょ。」
「うん、あとは背が高いくらいじゃない?」
そう、たぶんあの時の春の日差しと、耳の脇を通り過ぎて行く柔らかい、緑を含んだそよ風の匂いが俺の記憶を刺激したんだ。
匂いを司る嗅覚野と記憶を司る海馬は繋がっていて、匂いというのは人の記憶を呼び起こすのにもっとも効果があるというらしい。
脳が見せた幻。
俺の脳みそもまだ全部筋肉化した訳ではなかったらしい(笑)

確かにあれ以来、マイコがあの人に見える事はなかった。
そしてマイコはマイコとして、今、俺の胸の中にいる。

だからこそ、さっきの顔を蒸気させた原因がこいつかと思うと悔しくなる。
筋がいいのは嬉しいが、ちゃんとやれてんのは俺のリードがあってなんだけどなー。
「なぁ、玉」
「はぁ、、ー…なに、ミツ兄…?」
「いっちょ、スパーリングすっか」
兄の威厳を見せつけてやるぜ。
なぁ、弟よ。

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