第2章 災難《黄瀬涼太》
食事の後は、それぞれでこの旅館自慢の温泉を堪能した。
ちょっと濁ったお湯の美肌湯、眺めが絶景の露天風呂、日々の仕事での疲れがどんどん癒されていく気がした。
旅館で寝巻きとして用意される浴衣へ着替え部屋へ戻ると、黄瀬君は既に戻っており窓際の椅子へ腰掛け寛いでいた。
(っ……!)
浴衣姿の黄瀬君は私服のときとガラリと雰囲気が変わって、チラッと覗く鎖骨とか意外とシッカリしている胸板とか、妙に色気が溢れ出ていてとにかく目のやり場に困る。
黄瀬君の向かいの席へ腰を下ろすこともせず、扉の前で立ち尽くしキョロキョロと視線を泳がしていると、見兼ねた黄瀬君に「座ったら?」と声をかけられた。
「う…、じゃあお邪魔します」
「プッ!お邪魔しますって!また敬語になってるし」
黄瀬君と対面になると、ますますどこへ目を向けたら良いのか分からなくなった私は俯いて膝の上でキュッと握った拳を見つめていた。
「浴衣姿、可愛いっスね」
「っ…!」
黄瀬君の言葉に驚き、思わず顔を上げるとバチンと目が合った。
「お、お世辞とか言ってくれなくても大丈夫だよ?」
「本気で言ってるんスけど」
どこか熱を帯びている黄瀬君の瞳に、冷えてきていた体がまた一気に火照ってくる。
「っ…ぁりがとぅ」
今の私はそれだけ言うのが精一杯で、もっと可愛いらしいこと言えないのかと自分に呆れた。
「どういたしまして」
ニコリと微笑む黄瀬君はまるで王子様みたいで、私には眩しすぎて、再び顔を俯かせた。