第6章 ズルい男《今吉翔一》
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「今日の格好も可愛えな」
「…ありがとうございます」
彼の家の玄関先で交わされるいつもの会話。
私はこの「可愛い」を言ってもらう為に頑張ってるんだ。
きっとこの人にとっては何てことない言葉なんだろうけど。
「何か観たいもんある?」
彼の部屋の机に無造作に置かれた幾つかのDVD。
この人はいつも色々なジャンルのDVDを用意してくれている。
「じゃあ、これで」
「珍しいな、自分が恋愛もん選ぶの」
「私だってたまには見ますよ」
私が選んだのは、大ヒットした高校生の青春ラブストーリーの映画。
確かにいつもなら、この人が好きそうなミステリー系やホラー系のものを選ぶんだけど。
今日は何となく一緒にラブストーリーを見たくなった。
ソファで肩を並べ、映画鑑賞会が始まる。
主人公の女の子が高校で初恋の人と再会し、また恋をするといったお話だった。
恋心を自覚してからの主人公は、彼と目が合うだけで顔を赤くしたり、彼に一生懸命アタックしたりと何とも可愛いらしい。
途中、自分の友達がライバルになったり、自分を好きになる男の子が現れたりと波乱を迎えながらも、最終的にはハッピーエンドで無事初恋の男の子と結ばれていた。