第5章 誕生日 10/30ver.《氷室辰也》
「ごめんね、氷室君」
唐突に俺に謝罪の言葉を言う彼女に一瞬面食らう。
「どうして謝るんだ?」
「…私、急に氷室君の誕生日会に行かせてもらうことになったから、プレゼントとか何も用意できなくて…、その……」
「何だ、そんなことか。気にしなくて良いのに」
クスッと笑うと、彼女は「だって、皆色々準備してたのに私だけ……」と顔を俯かせた。
確かに、チームメイトは高かっただろう食事代、女の子達は香水をプレゼントしてくれた。
「……じゃあ、俺欲しいモノがあるんだけど」
「何っ?」
勢い良く顔を上げる彼女に、可愛いなとつい口元が緩む。
「君の今からの“時間”を俺にくれない?」
「え?」
彼女のただでさえ大きい瞳が見開く。
「俺はまだ君と一緒に居たいんだけど、ダメかな?」
「…ダメ、じゃないけど、でも…っ、終電が……」
「そうだね。……あと、俺の家ここから近いんだけど」
「っ……」
「……一緒に、来てくれる?」
俺の問い掛けに、彼女は恥ずかしそうに小さく頷く。
俺は「ありがとう」と言い、彼女の手を引いて自分の家へ向かった。