第2章 災難《黄瀬涼太》
「これ…」
「俺の連絡先っス!もし俺に会いたくなったら、いつでも電話掛けてきて?」
「っ…、何言ってるの!だからからかわないでって」
「からかってなんかないっス」
黄瀬君は愛想の良い人懐こそうな顔から一変し真剣な表情を浮かべ、真っ直ぐ私を見つめてくる。
そして私が何か返事をしなければと口を開いたとき、タイミングが良いのか悪いのかバスが来てしまった。
「じゃあ、俺はもう行くっスね!」
去り際の彼が少し寂しそうに見えたのは、私の願望がそうさせているのだろうか。
だんだんと小さくなる背中を見つめながら、私もバスに乗り込みこの場を後にした。
(何やってんだか……)
バスの心地良い揺れに身を任せながら、ハァと1つ溜息を吐く。
この1人旅は好きなことして贅沢三昧で過ごすはずだったのに、とんだ“災難”にあってしまった。
まさかモデルのキセリョと相部屋で、成り行きとはいえ体を重ねてしまうことになるとは、出発前の私は想像もしなかっただろう。
「……。」
連絡先が書かれた紙切れをぼーっと見つめる。
端っこにちゃっかりサインを書いてるあたりが何とも黄瀬君らしい。
(……好きになっちゃダメだ。本気にしちゃダメだ)
前の彼にフられたときみたいなあんな辛い思いをするぐらいなら、もう恋なんてしたくない。
……だから、私は黄瀬君を好きになったりしない。
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