第2章 #1 特別研修医
飛馬が家に着くと、3歳年下の流星が出迎えた。
「ただいま」
《おかえり お兄ちゃん電話きてたよ》
生まれてすぐに喉に腫瘍が見つかり、声帯を切除したため、流星は声が出ない。その代わり、普段は手話で会話する。
「分かった。誰から?」
《病院の偉い人 僕出ても話せないし 悪いことしちゃった ごめんなさい》
「謝らくていいよ。電話かけ直す時に、兄ちゃんから説明しておくから」
飛馬は流星の頭をそっと撫でた。
『はい、こちら陽南大学附属病院院長室秘書の駒田でございます』
「先ほどお電話いただいた、陽南大学附属中学校の馬渕と申します。先ほどは大変失礼致しました。弟が出ていたのですが、生まれつき声が出せないんです。本当に申し訳ありません」
『いえいえ。こちらこそ大変失礼致しました。…では、畑山に変わりますので』
そう言って、秘書の駒田は、電話を畑山に渡した。
『今親御さんはいらっしゃるかね?』
「いえ、まだ帰宅してません。」
『では、親御さんが帰って来てからもう1度連絡してくれるかね。何時でも結構だから』
「分かりました。何度も失礼します」
そう言って、電話は切れた。
2時間ほど経って両親が帰宅し、すぐに電話をかけてみると、畑山は丁寧に事の経緯を説明した。
最初は驚いていた飛馬の両親も、本人の意志を確認した上で了承してくれた。
こうして望愛と飛馬は、陽南大学附属病院の特別研修医として働く事になった。