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一輪の花

第2章 act1








北の海の風は火照った身体に心地良くて好きだ。



今宵を共にする女を探しに行く気も起きなくて。

すっかり眠る街を一人歩く。

雑木林を抜け静寂な海岸が現れる。

停泊している船が目前だった。


けれど。





ぴちゃん




静まりかえる辺りに突然響き渡る水音。




闇夜の中感じる自分以外の気配。

右手をすぐさま肩へかける愛刀へ。




「誰だ」



全神経を標的に注ぐ。



すると返ってきたのはこんな真夜中に似つかない柔らかい女の声だった。




「貴方はあの船の海賊さん?」


「…だったらどうする」


「ふふ、ここ人気もなくて隠れるには良い場所でしょ。私もお気に入りなの」


「おい…」





眉を潜め瞳を良くこらせば、暗闇の中から浮かび上がるその姿。



「…フラン…?」



それは脳を殴られたような、衝撃。

そこにはフランが。



いるかとさえ錯覚した。





「でも残念。ここは私の場所だから」




俺は不覚にも目を奪われていた。

自己防衛なんて今はとっくに薄れているだろう。

目の前の女がフランと酷似しているのだから。

少し癖のある長い髪に、月夜に照らされて透けてしまいそうな白い肌、細長い手脚。
暗闇でも分かるその大きく開かれた瞳は儚さと力強さを秘めていて。


俺は息を呑んだ。
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