第2章 act1
8年振りの故郷の風は俺達を温かく包んだ。
街並みは少し変わったものの何も変わらないものもそこにはある。
海賊を生業にしている身としてはあまり目立つ行動は取れないが小さな島の住民ほとんどが俺達の帰省を温かく迎えてくれた。
「いきなり帰ってくるなんてびっくりしたぞ」
「たまたま近くまで来たもんだからな。しっかし、オヤジもなかなかくたばらねぇな」
「ふぉっふぉっ、うるさいわ! 年寄りをなめるんでない」
馴染みのある酒場でハートの海賊団は酒を交わしていた。
ここのマスターはローが子供の頃から面倒を見て貰っていた。
久方に見る年老いた親父の姿に、時の経つ寂しさを感じる。
「あんたら随分と世を騒がせてんじゃないか」
「…まぁな」
ふと海賊としてここを出た頃の俺達を思い出す。
幼少から苦楽を共にしてきたペンギンやシャチ。
時が経つのは本当にあっと言う間で、全て一瞬、一度限り。
「フランの事はまだ信じられねぇな」
ローの口から静かに告げられた言葉に店主の瞳は小さく揺らいだ。
「…知っておるのか」
フラン。
彼女の名前さえ口に出すのは何年振りだろうか。
「風の噂で知ったよ」
一気に酒を喉へ流し込む。
まるで何かを紛らわすかの様に。
「そうか…」
故郷なのに降り立つのは初め躊躇った。
待ちうける現実に、景色に。
ねぇロー。
必ず迎えに来てよね。
今でも鮮明に思い浮かぶ。
今は亡き、フラン。
俺の人生を変えた、一人の女。
他の女なんか遊びでも目に入らなかった程俺はあいつに心底惚れていた。
俺達が海賊を組み島を出たあの日、必ず迎えに来る、という約束はもう果たせない。
3年後フランは病気で死んだから。
「馳走さま」
だいぶ夜も更けてきた頃ローは小さくそう言って腰を上げた。
「おいペンギン、転がってんの連れてけよ」
懐かしい故郷のせいか、いつもより酒が深いクルー達を一見してローは釘を刺す。
「ああ、わかってるさ」
ペンギンも酒に身を任せているが、あいつの冷静さはクルー1だ。
副船長は名だけではない。
「ゆっくりしていけと言いたいものじゃが」
「あまり長居はする気ない。まぁでも酒は底をつくだろうな」
親父にニッと笑みを向けローは酒場を後にした。