第5章 act4
その日ベポとシャチの午前中は買い出しに費やされていた。
明後日には島を出る為、増えるわ増えるわの大荷物。
ベポが休憩と駄々をこねるので、しょうがなく広場のベンチで休んでいた時の事だった。
「おいベポ、さっきからあの女俺達の事すげー見てるぜ」
「えっ?メスの熊⁉」
「馬鹿違ぇよ、やべ、こっち来る…!」
「…あの〜、ベポ、さん?」
シャチは目の前の女の第一声が男の自分ではなく熊のベポに向かれた事に酷く落胆した。
せっかくその気になって返事まで考えていたのに。
「ベポは僕だよ」
「わぁ!初めまして‼と言います」
「って言うんだ、こんにちは」
「っておい、馴れ合い過ぎだろお前ら!」
感極まりながら握手を求めてきた女にベポはなんの躊躇いもなく受け入れる。
その様子にシャチは空いた口が塞がらなかった。
「おい、あんた何者?」
「いや〜話しには聞いていて、一度拝見したいとは思っていたんですけど、まさか本当に会えるなんて!」
「………」
完全視界に入っていないシャチはスルーされたのち、ただ呆然とそのやり取りを眺めるしかなかった。
「あ〜私船長さんと知り合いっていうか顔見知りっていうか…。船長さんのお仲間さんなんですよね、最高のクルーだって言ってましたよ。シャチさん」
突如振ってきた彼女に完全アウトサイドだったシャチは不意をつかれる。
「ああ…俺のことも知ってんのか、あんた」
「ふふ、だって帽子と、そばかす」
知り合い?船長の女か?
いつものお得意、金で買った一夜の女かそこらだろうか。
まぁまぁ容姿も悪くねぇし、俺なら問題なくヤレるな。
いや、寧ろ超好み。
しかし船長がそんな女に俺達クルーの事まで話すとはまず思えない。
シャチは一人考えあぐねていた。