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短編詰め合わせ

第2章 free:遥


遥はとても大人しい子で。
誰がそんなことを言ったのだろうか、彼はとても獰猛だ。
水があればすぐに泳ぎ出す禁断症状がなければ静かだなんて誰が言ったんだ。
水みたいな子、それに関しては私は納得している。
水はただ静かなんじゃない。
何かが触れれば弾かれたよう滴は飛ぶし、時に荒れ狂うし、人への凶器ともなる。
私にとっての遥は凶器だ。


「どうしたら、良い」


どうしたら、なんて知ったことか。
必死にもがき苦しむ私を嘲笑うかのように、彼は私の両手を取る。
握る両手はずっと力強くて掬い取られた手は、離れないようにひとつひとつ確かめるよう指を絡め取られ力を込められる。
何度身を捩ろうと、腹部に乗せられた彼が退く様子はない。
ああこれで何度目だろうか。
何回こんなことをすればいい。
怒りを通り越して呆れ、そしてまた煮えくりかえり怒りをふつふつと呼びもどされる程に繰り返されたこの行為に、何時まで経っても慣れは来ない。
嫌気の余り涙が出て来ても、水の中ではただ私の感情は同じ水分として水位を足すことにも満たない微々たるものでそんなもので遥が気付く筈もなかった。


「俺は上手く言えない」

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