第2章 free:遥
水越しに見える遥は何度も揺らした腕の所為で歪んでしか見えない。口を開けば息が途絶えるから、彼に何も反論が出来ない私は必死に足を動かそうとするけれど、浴槽内での抵抗は狭くて遥が場所を取っている所為でただ何度も足が滑るばかりで意味をなさない。滑る度に足場がキチンと取れない私に恐怖心だけが植えられていく。
ふとしたとき、抱えられて遥の手で水沈められる。
帰りがけ、学校に行くとき、部活前、場所、時間帯、服装なんて関係ない。
彼の思い立ったとき、泳ぎたい病のように気付けば私は担がれ沈められる。
泳ぐ変わりだと言わんばかりに、何度も、何度も繰り返される行為に終わりは見えない。
「言えないなら、行動すればいいと思った」
なあ、分かった?その問いの答えに何と言えばいいのか。
けれど遥は返事が来るまできっと動かない、ジッと私を見つめているだろう両の眼がどんな風に私を見てるか、そんなの分からない。分かるのは、彼が触れたところだけ、遥の頬が掴まれている私の手に添わされて、ゆっくりと体重をのせる彼は私を急かしてきた。
震える、限界を迎えた口を開けば残り僅かの気泡が遥へと向かい上がって行く。
私の残り全部を持って行って彼はどうしたいのだろうか。ようやく口を開いた瀕死の私を抱き上げる彼は嬉しそうにも悲しそうにもしない、涙でぐしゃぐしゃな私の泣き顔を何度も撫でて、無感動に決まった言葉を遥は言う。
「何言えばいいかも分からないし、だからといってこれ以上の行為が浮かばない」
分かって、とのたまわる遥に耳鳴りが止まない私は、そんなの、知らないわよと両手で遥の肩を押した。