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空よ、泣き止め(銀魂:高杉夢)

第1章 空よ、泣き止め


 その懐かしい過去を思い出した途端、の心は苦しくなった。その苦しみも、堪えられず口から滑る。

「ねえ、晋助。アタシはもう、アンタの世界には必要ないかい?」

 単純な質問だった。幼い頃は共に学び、共に育った二人である。もちろん寺子屋で絆を築いたのは晋助以外にも居たし、晋助も坂田銀時や桂小太郎と言った友が居た。しかし、の中で晋助は特別な位置にいる。当時、愛して止まなかった三味線の稽古に付き合ってくれたのは彼だけであり、見えないが何処に行くにも手を引いてくれたのが彼だからだ。周りが二人をどれだけ冷やかそうとも、晋助がどれだけ怒鳴り返そうとも、の手だけは絶対に離さなかった。それがどれほど嬉しかった事か。

 だがそれも攘夷戦争前までの事だった。師である松陽が連れ去られ、吉田塾の若い男達は団結して戦に身を投じる。晋助も例外ではなかった。戦場で何か手伝えるかもしれない、とは着いて行く事を必死に訴えたが、足手まといだと晋助に一刀両断された。結局、三味線を弾く事しか出来ないのは事実であった為、泣く泣くは吉田塾の者達と別れる。そのまま時は過ぎ、旅芸人としては一人で全国を歩き回るようになった。

 その旅も存外、楽しいものになった。目が不自由ではあるが、それ故に人の情に何度も触れる事が出来たし、戦場で名を馳せた晋助の噂も耳に入り、無事を確認するたびに安堵する。けれど同時に、己の胸中に潜むモノが浮き彫りになった。寂しさと、恋慕の情だ。吉田塾では近くに居た為に自覚出来なかった感情である。終戦までは会えないのが悲しくて仕方が無かった。やっと戦も終わったかと思えば、晋助はテロリストとなって首が幕府に狙われる。結局、別れて七年間、再会の希望が生まれる事は無かった。

 もう会えない。そう覚悟して生きて行くつもりだった。数週間前に再会した銀時からも、晋助が「この腐った世界を壊す」と発言していた事を聞いたばかりだ。つまり、晋助にとって松陽の居ない世界など無に等しい物であり、が居ようが居まいが関係ない、と言う事なのだろう。それを聞いてしまえば、そろそろこの気持ちも封印する時期だと嫌でも悟った。
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