第99章 【東峰 旭】U&I
聞きたくない。
すぐに言葉を発して食い止めたいのに、どうして何も出ないのか。
身体もグッと固まって、その場から逃げることも出来ない。
「断っちゃった」
そう言って、ハハと苦笑いするひろかさん。
「・・へ?・・・・・・えっ!?」
予想していた内容と全然違うことに頭がついて行かない。
そんな俺を見てひろかさんは、ふふと笑った。
「あーぁ、婚期逃しちゃったなっ!」
そう言って、校門の壁に寄りかかっていた背中を離し、ゆっくりと歩き始めたひろかさん。俺はその背中を見ながら、未だに頭の中の整理が出来ないでいた。
「なんかね・・あの日、旭くんが私をかばって彼に言ってくれたじゃない?その言葉がね・・なんかグッときちゃって。・・あぁ、こういう風に愛されたら幸せなんだろうなって。彼から渡された指輪を見てても、そんなことばっかり考えちゃう自分がいてね。だから、そういう男性を探そうって思ったの」
「ひろかさん・・?」
咄嗟にひろかさんの背中を追いかけて声をかけると、ひろかさんはクルッと後ろを振り返ってニッと笑った。
「旭くん、またチョコメロンパン届けに来てくれる?」
「えっ・・それって・・」
ひろかさんには俺の気持ちを伝えた。
それでも会いに来ていいと言ってくれている。
いや、でも・・。頭の中がごちゃごちゃになってアタフタしてしまう。
ひろかさんはそんな俺を見て、ふふと笑う。
「旭くん、私ね。思わせぶりな事するの嫌いなの」
そう言ってまた背中を向けて歩き始めた。
「・・ひろかさんっ!!」
何度も見てきたひろかさんの背中。
いつも抱きしめたくて仕方がなかった背中。
それが今、自分の腕の中にある。
自分がこんなにも大胆なことを出来るなんて思ってもいなかった。
「ひろかさん。俺、ひろかさんの事が好きです。ひろかさんに釣り合う男になるから・・だから・・その・・」
「旭くん・・苦しいよ」
つい力が入ってしまった俺の腕にそっと手を置いて、駄々をこねた子供をあやすようにポンポンと手を動かした。
「・・旭くんのせいで婚期逃したんだから責任とってよね?」
そう言ってニッと笑うひろかさんは今までに見たことのないくらい幼くて可愛い顔をしていた。