第99章 【東峰 旭】U&I
「なぁなぁ、今日坂ノ下寄って行くだろ?」
部活が終わり坂ノ下商店で何を買うか相談しながら校門へ向かうと、その場には不似合いな姿の女性が立っていた。
「・・あっ、旭くん!」
まさかとは思ったけど、そこに居たのは間違えなくひろかさんで、少し控えめに手を振っていた。
今一番会いたくない人のはずなのに、どうしてだろう。身体が熱くなる感覚は変わらずだった。
「・・どうしたんですか、こんなところまで・・」
恐る恐る声をかけると、少し気まずそうにひろかさんは笑った。
スガ達には先に帰ってもらう事にして、誰もいなくなった校門でひろかさんと二人、何とも言えない空気感の中ぎこちない世間話をした。
10分ほど話をした後にひろかさんは大きく深呼吸をしてから口を開いた。
「今日はね、旭くんに報告があって来たんだ」
ついに本題に入った。
まだ話を聞いてもいないのに、心臓がギューッと握り潰されるかのように苦しくなる。
「私ね、プロポーズ・・」
「ひろかさん!!」
「はっ、はい」
今の自分にはひろかさんからの報告を受け止めるだけの余裕がなかった。
何も聞きたくない。
何も聞かず会わずにいれば、いつかはひろかさんの事を忘れられる。そう思った。
「俺、ひろかさんに嘘をついてました。ひろかさん以外に好きな人が出来たなんて言ってたけど、本当はひろかさんのことずっと好きで・・でもそれを言ったらひろかさんは俺と会ってくれないと思ったから・・だから嘘をつきました。だから・・もう俺とは会わない方が・・いいと・・思い・・」
自分からひろかさんが離れていくようなことを言った。
俺の気持ちを知ったらひろかさんはきっと俺から離れていくと思ったから。
なのに、言葉が詰まって最後まで言えない。
喉の奥がギュッと締め付けられて、言おうとしている言葉が全部喉に張り付いているようで息をするのも苦しくなる。
「旭くん・・。私・・ね、彼からのプロポーズを・・」
言葉が出ずに黙ってしまった俺を見て、ひろかさんが口を開いた。