第98章 【日向 翔陽】太陽はいつも君の傍に
もう、翔陽に嫌われてしまった。
翔陽だって部活で疲れているのに、自分ばっかり疲れているみたいに翔陽に当たった。
私の方が2つも年上なのに。
翔陽が好きになってくれたカッコイイ私はもうどこにもいない。
仕事も一人前に出来なくて、憧れていた一人暮らしだって十分に出来ていない。
高校時代は部活で必要とされているという実感があったけど、今は自分が必要とされているなんて少しも思えない。
私はこの世界に一人っきりのようで、ぎゅーっと心臓が締め付けられて呼吸が苦しくなる。
「翔陽・・会いたい・・」
ガチャ。
急に玄関が開く音がして、泣き腫らした顔をゆっくりあげるとそこには翔陽の姿があった。
「・・翔陽?・・なんで?」
翔陽は乱暴に靴を脱いで泣き崩れる私を抱きしめた。
そしてゆっくりトントンと手のひらを私の背中で上下させた。
「・・なに?」
「夏が泣いている時にこれやったら泣き止むから」
「・・私、妹じゃない」
「ハハ。でも・・女の子でしょ?」
翔陽はそう言って私の涙を丁寧にふき取ってくれた。
「母ちゃんが女の子には絶対に優しくしなさいって言ってた。大事な女の子はどんなことしてでも守りなさいって言ってた」
そう言うとニカっと笑ってまた私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「・・翔陽。私、仕事全然うまくいかなくて、でも翔陽に言えなかった。嫌われたくなかった」
「えっ!?何で嫌うの?俺が?ひろかを?」
「だって、翔陽はカッコイイ私が好きでしょ?」
翔陽はうぅ~ん。と唸りながら何かを考えていた。
その間も翔陽の手のひらがトントンを動いていて、いつの間にか涙は止まっていた。
「確かに、カッコイイひろかに憧れて好きになった。けど、俺は男だし、ひろかは女の子でしょ?女の子を守るために男は力も強くなるし、身体も大きくなるって父ちゃんが言ってた!・・まぁ、俺はそんなに大きくないけど。・・でも!ひろかを守るための力は付けて行くから。俺がひろかを守ってあげるから!・・な?」
翔陽はまたニカっと笑って、私の頭を撫でてくれた。
「これはね、夏が泣き止んだ時にやると笑うんだ」
「・・ありがとう。翔陽」
「あっ、ひろかも笑った」
翔陽はやっぱり太陽みたいで私の曇っていた心が一気に温かく晴れて行った。