第98章 【日向 翔陽】太陽はいつも君の傍に
「えっ・・あっ、はい、すっすいません!少々お待ちください」
まだまだ慣れない電話対応。
特にクレームの時には頭がパニックになってしまう。
傍にいる先輩に助けを求めてしまう自分が情けなくて、自分よりもずっと上手に仕事をしている同期を見ると気持ちがどんどん焦ってしまう。
「今日、田中さんがさ~」
「・・へぇ」
いつもは私からする電話も、昨日電話の途中で寝てしまったからか今日は翔陽の方から電話をしてきた。
「ひろか?聞いてる?」
「・・うん」
「ひろか・・なんか機嫌悪い?昨日寝ちゃったこと怒ってる?」
「・・怒ってない」
「怒ってるじゃん!!」
初めて怒った翔陽の声にびっくりして私は咄嗟に電話を切ってしまった。
どうして私が怒られるの?
翔陽が悪いのに。
私がこんな辛い思いをしてるのに、翔陽は何も分かってくれない。
私は飲みかけのお茶を捨てて、マグカップを洗った。
翔陽がプレゼントしてくれたマグカップ。
一人暮らしを始める私のために少ないお小遣いで買ってくれた。
マグカップに描かれていたヒヨコが翔陽に似ていたからこれを選んだんだ。
社内研修で出された宿題をやる時も、このマグカップにコーヒーを入れて頑張った。翔陽が頑張れって言ってくれているみたいで頑張れた。
スポンジを置いて蛇口に手をかけると泡で手が滑ってマグカップが滑り落ちた。
ガシャン
流し台の角にぶつかってマグカップは欠片となって散らばった。
ザーっと流れる水。
その流れに乗って排水溝に吸い込まれるマグカップの欠片。
自分の心もパリンと割れてしまって、このマグカップと一緒に排水溝に吸い込まれていく。