第97章 【京谷 賢太郎】それはきっと空のせい
「京谷ってさ・・」
コンビニを出て数分が経った頃、隣でピザまんをフーフーと冷ましながら俺の方を見ずに佐藤が口を開いた。
「岩泉さんのいう事は聞くんだね」
「あの人は・・すげぇと思ってるから」
そうなんだ。と少し微笑みながらピザまんを口に含み、口の中で更に熱を冷まして飲み込む。そして、俺を見上げまた笑う。
「京谷って、ハミチキ好きなんだね」
「・・あ゛ぁ?」
「だって、いつも食べてるじゃん」
「・・わりぃーかよ。好きなんだよ」
「ううん。京谷ってさ・・素直だよね」
正直こいつが言ってることが良く分からなかった。
「素直」なんて言葉をもらったことなんて今までの人生で一度もなかったからだ。
「まぁ、不器用だけどね。もう少し人付き合いうまく出来ればいいのに」
うん、美味しい!と独り言を言いながら、ピザまんの伸びるチーズと格闘を始めた。
「てめぇは八方美人だべや。さっきだって面倒くせー仕事押し付けられてもヘラヘラしやがって。てめぇみたいな奴すげぇイラつく!」
そう俺が言うと、ビックリしたような目で俺を見上げてきた。
「アハハ。ありがとう!」
「・・あ゛ぁ?誉めてねーよ」
「だって八方美人なんでしょ?八方にも美人なんでしょ?嬉しいじゃん!」
「・・お前バカか?」
「はさみとバカは使い様ってね?」
こいつと話していると調子が狂う。
決して八方美人の意味を分からないほどのバカではないはず。それなのに、ありがとうと喜ぶ佐藤の思考が全然理解出来なかった。
俺は食いかけのハミチキを一気に口に含み、上機嫌なこいつの2、3歩前を歩いた。