第96章 【花巻貴大/コラボ企画】kiss with you
最寄駅について、私の家まで向かう。
普段は駅から近いことを嬉しく思うのに、今日は全然嬉しくない。
もっと遠くに家があればいいのに。そう思ってしまう。
そっと隣にいる花巻先輩を見上げると、キレイな首筋、男らしい喉仏、そして薄めの唇。
夕日に照らされた顔がとても色っぽくて、私の心臓はまたドクンドクンと音を立てた。
その時、トンっと私の手の甲と花巻先輩の手の甲が触れた。
ビクッと身体が揺れる。身体中に電流が流れたみたいな、そんな感覚だった。
手を繋げるかもしれない。そう思うだけでソワソワして身体がガチガチになってしまう。
その後から、またいつ花巻先輩と手が触れるかに意識が集中してしまい、何を話したかなんて覚えていなかった。
「じゃぁ、また明日」
「はい。今日は楽しかったです」
「うん」
一瞬会話がなくなって、不思議な空気が流れた。
花巻先輩はジッと私を見ていて、私の心臓はバクバク言っていた。
「・・帰ったら、連絡する」
花巻先輩はそう言って帰って行き、私は花巻先輩の背中を見送った後、ペタンと地べたに座り込んだ。
「キッ・・キスされるかと思った・・」
火照る顔を両手で押さえて、声にならない声を出した。
「ねぇ、彼氏が花巻先輩ってことはさ・・やっぱりもう・・シた?」
「・・へ?」
「いやいや!何とぼけてんの?花巻先輩と付き合ってもう3カ月でしょ?」
友人は目を見開いて固まっていた。
「キス・・もしてない」
「えぇー!?あり得ない!」
「だっ・・だよね」
ずっと気になっていた。
花巻先輩と付き合ってから何度もデートをしたけれど、花巻先輩は手すら握ってくれなかった。