第94章 【矢巾 秀】恋に恋して
「よっ、よろしくお願いします!」
約束の日曜日、カラオケで野球部との合コンが開催された。
野球部はメンバーは全員3年生だったため、殆どが初めて話す人達。佐藤はガチガチに緊張していた。
連絡も着ていないスマホをいじりながら、何とか間を持たせていると、佐藤の好きなアーティストのイントロが流れて、咄嗟に反応した。
「何?ひろかちゃん好きなの?」
「は、はい!いつも聴いてて・・!」
「マジか!女の子で詳しい子初めて出会った!」
共通の話題もあり、佐藤は一気に距離を縮めた。
彼の名前は川崎将大。青城野球部の3年。
容姿も良くて、人見知りの佐藤に対しても丁寧に話をしてくれた。
「ひろかちゃんって本当に彼氏いないの?こんなに可愛いのに」
「いません、いません!・・けど、恋がしたいんです。私、高校に入ったら恋をするって決めたんです!」
ハハハと笑いながら手に持っていたジュースに口を付けた彼は佐藤に微笑みかけた。
そんな彼の優しい笑顔に佐藤の心臓はドクンとはねた。
「わっ、私お手洗いに・・」
佐藤は落ち着かない心臓を押えながら一人部屋を出た。
「ひろか!」
トイレで髪型を直していると、後から入って来た理香に肩を叩かれた。
「理香~!どうしよう!川崎さんカッコイイ!音楽の趣味も合うし、それに・・それにね!!」
「・・・ん?」
「私のこと可愛いって言ってくれたの!」
はぁ。とため息をつく佐藤に理香は持っていたリップを手渡した。
「ねぇねぇ、髪がた乱れてない?」
佐藤がリップを塗っている間に理香が髪型を整えた。
「理香が使ってるヘアコロンかけて!!」
「もう、仕方ないな~」
理香はバックから手のひらサイズのスプレーボトルを取り出して、佐藤の頭に吹きかけた。
「これで理香みたいな素敵女子になれるよね!」
佐藤はそう言って鏡の前で身なりをチェックした。
「ひろかは十分素敵女子だよ?私なんかより・・」
「それはない!けど、頑張る!理香みたいになりたいもん!」
佐藤はよしっ!と気合を入れてトイレを出て行った。