第93章 【国見 英】キャラメルの香りあなたの香り
「……っ」
ポタポタと教室の床に血が落ちる。
教室中が大騒ぎになって、俺は自分のまぶたから血が出ていることに気がつく。
「保健室!保健室だ!!」
「私!!わっ、私が国見くんを連れて行くよ!!」
一人のクラスメイトが俺の傍へ寄ってきた。
さっき俺に質問をした女子が何かを報告していた子だ。
その女子グループから冷やかしの声が聞こえてきて、さっきの質問の意図を理解した。
俺は鈍感な方ではない。
むしろ敏感な方だ。
ただ、気付いていても顔に出さないだけだ。
一人で大丈夫だと言ったけど、クラス中がさすがに一人では危ないとその彼女と共に保健室へ向かった。
「失礼します」
保健室の扉を開くと、先生が駆けつけ俺をイスに座らせた。
「せっ、先生!国見くん、大丈夫ですか?」
「うぅ~ん、ちょっとまぶた切っただけかな?後は先生に任せてあなたは教室に戻りなさい」
でも…と渋る彼女に先生は微笑んで口を開いた。
「心配する気持ちも分かるけど、あなたが次の授業のノートを取っておいてあげる方が彼も喜ぶんじゃないかしら?」
「・・はいっ!」
彼女は教室に戻り、先生は俺の処置を始めた。
止血をして、まぶたの上にはガーゼが当てられた。
完全に片目を閉じた状態になっていた為、あまり距離感が掴めない。
先生に少しジッとしていなさい。と言われ、俺は椅子に腰かけたままスマホを開いた。
「こら。今は授業中よ?それに、また肩凝っちゃうぞ?」
先生はそう言って俺のスマホを取り上げた。
「ねぇ、さっきのもしかして彼女?」
「違いますっ!」
急に声を荒げた俺に先生は驚いたような顔を見せたから、俺も口をへの字にして俯いた。
「…はい、携帯」
スマホを俺に返しに来た先生。ふわっと先生から香るキャラメルの匂い。
あぁ・・この匂いだ。