第93章 【国見 英】キャラメルの香りあなたの香り
休み時間、教室はガヤガヤとうるさい。
雑誌を広げてアイドルの話で盛り上がっている女子グループや、教室の一番後ろから黒板横にあるゴミ箱へペットボトルを投げ入れようと悪戦苦闘している男子グループ。
そんなクラスメイトをボーっと眺めながら、カバンから手のひらサイズの箱を取り出す。
箱をスライドさせると、コロコロっと箱の中でキャラメル達がぶつかり合う。
その一つを取り出して、口に運ぶ前に一度匂いを嗅ぐ。
甘いキャラメルの香り。
別に食べる時に何でもかんでも匂いを嗅いでしまう癖があるわけではない。
キャラメルの時だけだ。
匂いを堪能した後に、ゆっくりと口へ運ぶ。
「国見っ!!」
背後から急に声をかけられ、キャラメルは驚いた俺を表すかのように跳ね上がった。
慌てて何度か手や腕でバウンドさせたが、その努力も空しくキャラメルは床へ落ちてしまった。
「…なに?」
俺は床に落ちたキャラメルを眺めながらクラスメイトに返事をした。
「国見って好きなものとかある?」
「…なんで?」
「いいから、いいから!」
早く!早く!と急かすように聞かれ、少し考えた後で答えた。
「寝ること」
「そうじゃなくて!物だよ、物!」
何で人に質問してきて怒っているのだ?なんて思いながらも、また少し考えて答えた。
「…ベッド。布団でもいい」
「あぁ…もういいわ。でもあれだよね?キャラメルは好きなんだよね?オッケー」
せっかく答えたのにため息までつかれた。
その彼女は女子グループの元に帰って行って、何かを報告しているようだった。
何がオッケーなのか。
俺は床に落ちたキャラメルを拾ってゴミ箱へ向かった。
名残惜しい気持ちを抑え、キャラメルをゴミ箱へ投げ入れる。
「国見!あぶねぇ!!」
急に声がかかって振り返ると、ペットボトルが飛んで来ていて、避ける暇もなく目の上辺りにぶつかった。