第92章 【矢巾 秀】俺はピエロ
「おい、矢巾。お前、見過ぎ!」
「・・・えっ!?」
それから半年が経ち、俺は絶賛片思い中だった。
彼女に見惚れる俺をからかって友人が彼女の名前を呼ぶ。
教室の前の席で楽しそうに話をしている彼女が声に気付いてこちらを向く。
「矢巾がお前のこと可愛いって言ってんぞ~」
「ちょっ!やめろよ!」
急いで友人の口を塞ぐけど、クラス中にその声が響き渡る。
マズイ。そう思って彼女を見ると、一度驚いた表情を見せた後にニカっと笑う。
「知ってる~」
そう言ってVサイン。
他の奴らが便乗して、可愛い~と声をかけると、ありがと~と手を振ってみせる。
笑いものにされるはずだった俺は彼女のパフォーマンスで救われた。