第92章 【矢巾 秀】俺はピエロ
彼女との出会いは入学式だった。
「国歌斉唱」
希望と不安でいっぱいの高校の入学式。
まだ着慣れないブレザー。
学ランより少し大人になった気がしてワクワクした。
バレー部はどんな選手がいるのかな。
クラスはどんな奴らがいるかな。
「可愛い子いるといいな・・」
入学式が終わり、自分の教室に向かう。
教室へ一歩。廊下からの一歩。中学から高校への一歩。その一歩を踏み出した。
「・・きゃっ」
トンッ、と柔らかい音と、背中に柔らかい感触。
「ごめんなさい。前見てなくて・・」
振り返った俺の目に入ってきたのが彼女だった。
友人達に笑われ、ぷすっと頬を膨らます顔も可愛くて俺はつい見惚れてしまった。
この時、恋はするものじゃなく落ちるものだ。なんて名言を自分で言ってみたりもした。