第11章 【澤村 大地】彼は天然魔性
私の部屋の前まで来たところで、
私は重大なことに気がついてしまった。
「澤村くん、部屋どこ!?」
「隣の棟の303だけど…」
澤村くんは逆方向の私の部屋まで送ってくれていたのだ。
「どうして言ってくれなかったの?」
そんな私を、澤村くんは不思議そうに笑った。
「…じゃぁ、おやすみ」
去り際に頭の上に置かれた澤村くんの手の感触がしばらく忘れられなかった。
部屋に戻っても、もちろんすぐに寝るなんてありえなかった。
男の子グループは部屋に戻ったようで、
ここからはガールズトークになる。
「えぇー!やっぱりAクラスはサッカー部の…」
「それを言うなら、私はバスケ部の…」
1人の友人がしおりの裏にABCと表を書いていた。
男の子のランキングを作っているのだ。
興味がなかった私はさっきの澤村くんとの時間を思い出していた。
「澤村くん、無事に部屋に戻れたかな…」
私は携帯を取り出して、澤村くんにメールを打った。
[さっきはどうもありがとう。無事部屋に戻れたかな…?]
「…変じゃないよね?」
こんな短い文章なのに何度も読み返して送信ボタンを押した。
ピロン
[さっきは焦ったな。けど、佐藤と話せて楽しかった。
こっちは無事部屋に戻れたぞ。心配かけたな]
初めての澤村くんからのメールを何度も読み返した。
「ちょっと、ひろか!ひろかは誰がAグループだと思うわけ?」
「うぅーん。澤村くん…かな」
「「・・・・」」
沈黙の後、部屋中に笑い声が広がった。
「ないない!澤村はないでしょ!」
「そうそう、いい奴だけどさー。お父さんみたいじゃん」
「ひろかってそういうのがタイプなわけ?」
「澤村はBでいいよ」
表のBの部分に澤村くんの名前が書かれた。
「こら、早く電気を消せ!」
部屋から明かりが漏れていたのか、
先生が部屋に入ってきて、怒鳴られた。
私たちは渋々電気を消した。