第11章 【澤村 大地】彼は天然魔性
昼休み。
孝ちゃんと廊下で次の授業の話をしていたら、
背後から声がかかった。
「スガー!ちょっといいか?」
そこにいたのは確か、隣のクラスの男の子。
私の存在に気付いたのか、すまん。と申し訳ない表情を見せた。
「あぁ、大地。こいつは佐藤ひろか。俺の幼馴染」
お互いに初めまして。と会釈をした。
これが澤村くんとの始めての出会いだった。
「おぉーい!女子たち!遊びに来たぞ」
高校に入ってすぐの大イベントは研修旅行。
少しずつ新しい環境に慣れてきて、なんとなく仲のいいグループが出来上がっていた。
クラスでも元気のいい男の子グループが
私たちの部屋へ遊びに来たのだ。
ワイワイガヤガヤ。
私は少し外の空気を吸いたくて部屋を出た。
自動販売機の前で品定めしていると、
いきなり腕を引かれて、壁と自動販売機の隙間に押し込まれた。
状況が掴めなかったが、
目の前には厚い胸板と私の口を塞ぐ大きな手。
ゆっくり目線を上げると、そこには強張った顔の澤村くんがいた。
「おい!お前たち!もう消灯の時間だぞ!!」
少し向こうで先生の怒鳴り声が聞こえてくる。
少しずつ声が遠くになっていくのがわかった。
「…大丈夫か?すまん、びっくりさせて」
ゆっくり口を塞いでいた手を離して、
眉を下げながら私にそう言った。
「危なかったな」
ハハと笑う澤村くんにドキドキが止まらなくなった。
「澤村くんがこんな時間に出歩くなんて意外だな」
「それはこっちのセリフなんだが…」
私たちはお互い部屋を出た経緯を話した。
部屋に戻るのが憂鬱だった私のために、
澤村くんは少しの間、話に付き合ってくれた。
「こらーーー!部屋に戻れーーー!!」
ビクッ
遠くから聞こえる先生の声に、私たちは狭い隙間の中でぐっと体を縮めた。
澤村くんがすごく近くて、私の心臓の音が聞こえてしまうのではないかと心配になった。
「…俺たちもそろそろ戻るか。佐藤の部屋何号室?」
先生の気配がなくなったのを確認して、私たちは部屋へ戻った。