第90章 【及川 徹】だから嫌いなんだよ
「やばい、やばい!遅れる!!」
昼休みに1年生の女の子たちに捕まってしまい、次の授業に遅れそうだった。
近道になる中庭を通ると、木に登る女の子を見つけた。
「何してるの?」
「あっ、及川。ちょっと木の上で昼寝でもしようかと」
そう言って、俺の方をちらっとだけ見て、また登り始める。
「おっ、女の子がそんなはしたないマネしちゃいけません!!」
そんな俺の声も届いていないのか、聞いていないのか、彼女はどんどん上へ登って行く。スカートの中身が見えないか心配したけど、きちんと中にジャージを履いているのを見て、少しがっかりしたような安心したような気持ちになる。
「及川も登れば?」
「登らないよ!それに授業遅れるよ?」
「うぅ~ん。今日はサボる!」
そう言って、彼女は目をつぶった。
本当に昼寝をするつもりらしい。
俺は彼女が嫌いだ。
こうやってよく授業をサボるくせに成績はいつも俺なんかより格段に上で、スポーツをやらせればどの部でもレギュラーを取れるくらいの実力がある。
まさに天才という言葉は彼女のためにある言葉だと思う。
「及川ってさ~」
「・・・なに?」
「スゴイよね」
「はぁ?」
天才にスゴイと言われる凡人の気持ちがどんなものかなんて君にはわからないだろうね。
それは真面目にコツコツ努力しててスゴイですね。私はそんな努力なんてしなくても出来ちゃいます。と言われているようで、ものすごく腹が立つ。
「私、及川のこと好きだよ」
「・・・はっ!?」
木の上から、俺の方も見ずに目を瞑ったままの告白。
人をバカにしているとしか思えない。
「俺は君のことなんて嫌いだから!!」
俺はそう言い残して、教室へ戻った。