第89章 【花巻 貴大】いつだって、俺の思い通り。
新しいドリンクを持って席に戻ると、
松川は外に向けていた目線を俺に向けた。
「花巻はすごいよな。別れるって言われても動じないんだな…」
「えっ!?」
松川は、ハハ。と乾いた笑いをした後、空になったコーヒーカップを俺に差し出した。
「コーヒー、おかわり」
「自分で持ってこいよ!」
それでも席を立とうとしない松川。
俺は大きくため息をついて、松川の分のコーヒーを注ぎに行った。
ゴーっという音がなり、コーヒー豆のいい香りが広がる。
よくこんな苦いの飲めるよな。とドリップされるコーヒーを見た後に、そっと松川の方を見るとまた外を見ながらあの顔をしていた。
松川は…なんていうか、俺たちの中でも大人で、一緒にバカもやるけど、どこか俺たちとは違う雰囲気がある。
俺はコーラを飲んでいるのに、松川はブラックコーヒー。
俺は週1しか会えない彼女の前でゲームを我慢出来ないのに、松川はゲームなんてきっと頭にない。
時々、松川といると自分がどうしようもなく子供な気がしてくる。
出来上がったコーヒーを持って席に戻ると、松川は携帯を見て微笑んでいた。
「何、ニヤニヤしてんだよ!」
コトン。とカップをテーブルに置くと、松川はお礼を言ってすぐに口元に持っていった。
「何?例の人?」
「…まあ、そんなとこ」
そうはぐらかして、松川は携帯をしまった。
さっきまであんなに悲しそうな顔をしていたのに、今はすごく穏やかな表情になっている。
松川はそんなに表情に出すタイプではないけど、1年からずっといるんだ。俺には違いが分かる。
「なぁ、松川にとって男のプライドって何?」
「は?」
自分でも小っ恥ずかしい質問をしているのは分かっている。
ただ、大人な意見を聞いてみたかった。
「…プライド、ね」
松川はそう言うと、一度吹き出した後に頬杖をつきながら俺を見た。
「お前はどーなわけ?」
「俺は・・なんてゆーか・・」
言葉に詰まり、勢いよくドリンクを飲みこむと、ゲホゲホとむせてしまった。
「男のプライドなんてちっぽけだよな」
そう言いながら松川は紙ナプキンを差し出した。
そんな松川の顔がすごく大人に見えて、俺は口を拭いた紙ナプキンをクシャクシャにして、灰皿の上に置いた。