第89章 【花巻 貴大】いつだって、俺の思い通り。
「でも、まぁ…、人のものになってしまってから後悔しても遅いって事だけは言っておく」
相談に乗ったんだから、ここは奢りな!と松川はそそくさとファミレスを出て行った。
俺は渋々会計を済ませて、松川が待つ出口に向かう。
「俺、用事出来たから行くわ」
松川は片手を上げて、駅の方へ向かって行った。
俺は一人、賑わう駅前の広場のベンチに腰をかける。
街にはたくさんの人がいて、楽しそうに笑い合うカップルが目に入る。
「ひろかの方が可愛いな」
ボソッと溢れる独り言。
ひろかは可愛いし、明るくて、気も使えて、スタイルだって申し分ない。
うちのクラスに居たら、一番人気の女子になる。
“人のものになってしまってから後悔しても遅い”
俺はすぐに立ち上がって駅へ向かった。
俺は大人な男。
俺が折れて謝ってやる。
本当は心の中で舌を出しているけど、
ここは大人になって謝ってやるんだ。
別に他の奴に取られるんじゃないかってビビってるわけじゃない。
子供なひろかには大人な俺みたいな男じゃないと付き合っていけないだろ?
彼女の家の前で帰りを待つ。
今回は俺から謝ってやるよ。
これは負けじゃない、勝ちだ。
俺の勝利だ。
「貴大…?」
「おう!…あの、その…こないだはごめん」
「…うん。私こそごめんね」
「今から飯食いに行かね?」
俺がひろかに左手を差し出すと、ひろかの右手が重なり合う。
ひろかを見ると、満面の笑み。
「貴大、好きだよ!」
俺は一度周りを見渡した後に、そっとキスをした。
「知ってる」
ひろかは少し照れて笑った。
ほら、俺の思い通り。
いや、ひろかの思い通りかもしれない。
TheEnd