第89章 【花巻 貴大】いつだって、俺の思い通り。
「松川ー、一緒に帰ろうぜ?」
「…いいけど、彼女は?」
「………」
何も言わずに、松川の机の横に立つ俺に
松川は察しましたと言わんばかりに席を立って俺の肩に手を置いた。
今日は月曜日。
部活は休み。
普段だったら、ひろかと待ち合わせてデートをする。
違う高校に通うひろかに会えるのは週1回。
だから俺は、楽しく過ごしたかった。
のに!!!
「もう、別れるっ!」
そう言うあいつを置いて、俺はその場を去ってしまった。
それが先週の月曜日だ。
「…で?喧嘩の原因は?」
帰り道、ファミレスに寄った俺と松川。
ドリンクバーのコーヒーを片手に話を切り出された。
「知らね。あいつがいきなり機嫌悪くなって。だから俺も腹たって黙ったら別れるとか言い出した」
ブクブクブクとストローに息を吹き込んで、コーラを泡立てて見せた。
「なんで機嫌悪くなったか分かんないわけ?」
「…たぶん、俺がゲームしてたから…かな?」
ゲーム?と首をかしげる松川に、俺は最近ハマってる携帯ゲームを見せた。
「週1しか会えないのに、わざわざその時やる必要ないだろ」
「ちょうどイベントの時間だったんだよ…」
分かってる。
松川の言うとおりだ。
けど、それならそうと、可愛くゲームやめて?とか言えばいいだろ?
それにあいつだって、デートの途中に友達と長電話したりしてんだろ?
お互い様なのに、なんで俺の時だけ怒るんだよ。
不公平だろ?
「…松川は喧嘩とかしないのかよ」
「しないね」
「それは相手ができた人だからだ」
「あの人は・・まぁ」
松川が言う、あの人。
何度か深く聞こうとした事があるけど、松川は話さなかった。
恥ずかしいから…という理由ではなさそうで、
時々すこし悲しそうな表情をするから、それ以上踏み込めない。
「そんなのこっちから、さっさと謝ればいいだろ」
ん?と松川は片眉をあげて俺を見る。
「いつも俺から謝ってんだよ。俺がここで謝ったら、なんか負けた感じがする。あいつの思う壺だ」
だから、絶対俺から謝んねぇ!
そう言って席を立ち、新しいドリンクを取りに行く。
席に戻ると、松川がまた悲しそうな顔で外を眺めていた。