第88章 【青根 高伸】私の彼を紹介します。
人ごみを避けながら、というよりは人ごみが青根くんを避け、私達はどんどんと先に進む。
早い。
それもそうだ。
私と30センチ以上違う身長の彼が、私と歩く速さが同じなわけがない。
いつもは私の速度に合わせてくれていたんだ。
私の手を掴んで前を歩く青根くんの背中。
すごく大きくて、前の景色が全然見えない。
あっ。
私、今青根くんと手を繋いでいるんだ。
大きくて私の手全部を包み込んでしまう青根くんの手。
私はジッとその手に見入ってしまう。
ドンッ
青根くんが急に止まって、私はそのまま青根くんの背中に顔をぶつけてしまった。
振り返った彼は私の両肩をぐっと掴んだ。
「・・また泣いてる。・・あいつ、また泣かせた」
泣きはらした私の目を見て、青根くんはそう言った。
青根くんの顔がすごく悲しそうな表情で、喉の奥がきゅーっと狭くなる。
「違うの。今日、彼には他に好きな人がいるって伝えたの。・・青根くんが好きだって言ってきたの」
私がそう言うと、青根くんは慌てて両肩に置いていた手を離した。
「青根くん、私と付き合ってくれませんか?」
大きく頷いてくれた青根くんを見て、私の腫れあがった目からまた涙が溢れ、青根くんは慌ててハンカチを差し出してくれた。
「青根くん、拭いて?」
私が泣きながら笑うと、青根くんは恐る恐るハンカチで涙を拭ってくれた。